3Dプリント金型でうっかり量産。巷で話題のデジタルモールドってなんですか?/橋爪 良博

3Dプリンター事業者に話を聞こうシリーズ

本インタビュー企画は、3Dプリンターに関わる事業者の考えを真面目半分、与太半分に聞くものです。第8回は、「信州の眠らない暴走列車」と呼ばれている橋爪さんにお話を聞いてみます。

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橋爪 良博 プロフィール

大手メーカーにて設計開発業務に従事した後、当時廃業寸前であった父親の経営する会社を2010年に承継。たった1人での事業承継であったが、すぐさま下請け製造業から設計会社に事業転換。最新の3Dツールを使い数多くの実績を上げ、事業を急速に拡大中。

2014年がんばる中小企業300社、2016年日経優秀製品・サービス賞、最優秀賞等

 

産業用3Dプリンターで金型をつくる「デジタルモールド」   その活用事例や誕生秘話についてお伺いします。

※今回は、有限会社スワニーに出張取材です。長野まで遠かった〜〜!!

 

▼長野から東京から車で2時間くらい!

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▼有限会社スワニー

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デジタルモールドとはなんぞや?

濱中:早速ですが、スワニーの得意技である「デジタルモールド」って何ですか?

橋爪:3Dプリンターで簡易金型を作り量産時と同じ材料で部品を生産する技術のことです。3Dプリンターの樹脂素材で型をつくるので従来の金型よりも製作費用が安いですね。

普通の金型と同じく、材料を型に流し込み形状化するので、量産と同じ材料でつくることができます。

濱中:なるほど、通常の金型と違う部分はなんですか?

橋爪:通常の金型は100万円単位ですが、デジタルモールドは樹脂素材なので10万円もかかりません。低価格のため、ペットボトルにくっつけるノベルティとか小さいグッズをサクッとつくるのに適しています。

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濱中:分かりやすく五七五で言ってもらえますか?

橋爪:

量産を

誰より早く

する技術

 

濱中:めちゃくちゃ字余りじゃないですか。

橋爪:型をつくる仕事をしていますが、仕事と俳句は型にハマらないようにしています。

 

▼3Dプリント金型

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濱中:デジタルモールドについてですが、一押しのポイントは3Dプリンターで作ることによる型製作のスピードなのでしょうか? 従来の金型は2ヶ月くらいかかりますし。

橋爪:もちろん早さもですが、みんなが求めているのは量産部品と限りなく近い素材として試作物を作りたいということですね。

100個単位という試作物ですが、そのまま量産品と同じような素材として使えます。それを「うっかり量産」と言います。

濱中:うっかり八兵衛みたいな。

 

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橋爪:そもそも3Dプリンターで直接造形したものは素材特性が違うので、量産品として検証ができないのですね。性能・耐久性などを比べてもまだまだですし。

量産品として使うには、樹脂密度をしっかり高めてあげて、推奨まで温度を高めてあげて、さまざまな方法を取らなければなりません。それをするには金型は価格が高いので、「3Dプリンターで型を作っちゃえ!」という考えなんですね。

濱中:失言かもしれませんが、金型でいうところのカニカマのようなイメージですね。

 

▼樹脂で作られた金型(別名、カニカマ金型)

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小・中ロット製造のニーズ

濱中:そういえば、「日経優秀製品 サービス賞」を取り、新聞で大きく話題になりましたね。知り合い曰く、技術的な凄さが評価されたのではなく、“中ロットのニーズがある”ということがポイントという風に聞きました。

橋爪:そうですね。1,000個以下でモノをつくりたいという個人や企業のニーズにうまくハマったと思います。

濱中:そういったニーズは、具体的にどのようなものでしょうか?

橋爪:たとえば、ベンチャー企業が世に出したい製品があったときに金型は200万円するので高いと。そこで、デジタルモールドを使えば、10万円ほどの費用で商品開発を行えます。リスクも在庫を取りません。とりあえず、100個あれば世の中で勝負することができます。

濱中:かっこいい!

橋爪:あと、さまざまな業界の製品で、年間に300個しか作らないという製品が多くありますね。この領域は強いです。

そのときにお客さんが悩むのは、材料の選定なんです。材料によって収縮率が違うので使い物にならなかったりします。量産型つくる前に、検証・研究として使いたいという声がありますね。

 

▼スワニーの掘っ建て小屋。3Dプリンターだけでなく、いろんな設備がある

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名前の由来

濱中:「デジタルモールド」という名前は橋爪さんはつけたんですか?個人的にハイセンスだなと思ってます。

橋爪:そうですね。分かりやすい名前がいいなーと思ったので、この名前にしました。「なんとかシステム」「高速なんとかマシーン」ってネーミングよりも分かりやすいじゃないですか。デジタルツールを使うから、デジタルモールドという名前にしました。

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濱中:そこはいつもみたいに下ネタに走らなかったんですか?

橋爪:お酒は入ってましたが、ギリギリ走らなかったですね。

濱中:下ネタは好きですか?

橋爪:はい、ダンディなシモネタが好きでですね。

 

 

▼樹脂金型をセッティングする場面

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発展のきっかけは大手企業とのタイアップ

濱中:デジタルモールドがここまで発展したのはどういった理由でしょうか?

橋爪:大手企業と一緒に開発を進めたのが大きかったですね。

むかしむかし、とあるイベントでデジタルモールドについて発表したときに、やたらと食いついてきた某メーカーのオッチャンがいました。講演後にオッチャンが「お前のところに発注しするよ」と、やたら突っかかってくるので、そのまま協同で開発するようになりました。

この技術って、工場に丸投げしてもできないんですね。メーカーと工場が密に何度も連携して、樹脂金型でも当てはまる製品を考えることがとても大事です。

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濱中:なるほどです!

橋爪:あと、デジタルモールドの価値って、樹脂成形や射出成形について詳しい人じゃないと理解しにくいんですね。そのときに、ちょっとの数量しか部品が取れなくても本物と同じ素材でできるというのを、白髪でオールバックのオッチャンが100%分かってくれたのが良かったです。

濱中:いい話ですね。

 

※白髪のオッチャンは、デジタルモールドの開発のため月2回で東京〜長野を往復しているらしい。製造業に精通しているメーカー担当との長い付き合いがデジタルモールド発展のカギだそうだ。

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濱中:どうしてスワニーという会社からデジタルモールドが生まれたのでしょう?

橋爪:ひとえに、設計屋というポジションだからだと思います。設計やってると、製品を月に10万個つくりたいという話から、量産材で10個だけ作りたいという依頼まできます。他の3Dプリンターや金型などの製造会社ですと、依頼する側もロット数が決まってるので。

 

濱中:アルミ金型と3Dプリント型はなにが違うんですか?

橋爪:まずショット数かと思います。3Dプリント金型は他の金型と比べてショット数などの問題はありますね。数百個しか打てないので。ただコスト的には安いです。安い方が良い!という場面があれば、この技術がいいんですね。

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濱中:社内に対しての教育はなにしているんですか?

橋爪:基本放置です。

濱中:ダンディですね。

 

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濱中:最初はお客さんに育ててもらうスタンスです。みんな見積もりから実務まで幅広くしますよ。

橋爪さんは3代経営者ですが、家業を継ぐ前は何をしてたんですか?

 

橋爪:大学を出てサラリーマンしていましたね。経営の勉強とかしなかった。子供のときは現場の手伝いをしてましたよ。あと、どうでもいいけど写真撮影はiPhoneなんだね。

濱中:経費削減です。

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濱中:目標にしている会社はありますか?

橋爪:うーん、ないな。

 

濱中:パナソニックやソニーは?

橋爪:あまり目標にはないですね。スワニーらしく、スワニーっぽくやっていこうかなと。

 

濱中:好きな製品はないんですか?

橋爪:これもあまりないな。シンプルで使いやすいものは好きですが、特にこだわりはないなーという感じ。

濱中:なかなか珍しいですね。

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濱中:町工場を題材にした下町ロケットのドラマは知ってますか?

橋爪:見た見た。あれ、好き!!

濱中:初めてテンションが上がった。

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町工場の人に聞きたい3Dプリンターについて

濱中:3Dプリンターの導入の経緯についてお聞かせください。

橋爪:最初は、ストラタシスの「uPrint」を買いました。そこから銀行から融資を受けて、産業用の機材を購入しました。色んな機種がありますよ。

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濱中:3Dプリンターの今後の展望は?

橋爪:まず、ぼくは「脱・3Dプリンター」なんですよ。3Dプリンターに対してこだわりがないですね。

早いうちに、便利に、安く、設計の現場に使える!というようにしてほしいという考えをしています。道具ですからね、安くならないと。

 

濱中:3年前におきた3Dプリンターブームについてはどう考えますか?

橋爪:フーーーンって感じですね。3Dプリンターも3回目くらいのブームですし。ただ取材や講演は増えました。

3Dプリンターもブームであるうちは、あまり意味がないと思っていて、どっかのタイミング……多分もうじきに今とは違った使われ方はされると思います。

みんなが思っているよりも早いうちに、その波はくるかなと。

 

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濱中:基本的に、スワニーさんは他社の製品開発の手伝いをする役割をしていますが、実際に自分たちで製品をつくったりしないんですか?

橋爪:そういったものは、自然と生まれてくればいいかなーと思ってます。意識的にメーカーになろうとするのはちょっと違うかなと。自然の業務の中で、たまたまそういった製品が出てくればいいですね。

そのためには、他社が製品を作って出すまでの仕事の流れを携わることが1番かなと思います。ぼくたちは製品技術力を高めることをやっています。

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濱中:3Dプリンターの金型について質問です。同じような取り組みをしている会社がありますが、他社と違う部分について教えてください。

橋爪:圧倒的に経験値の差ですね。先に3Dプリンター金型というジャンルを大々的にやっているので、毎日お客さんも来るし、研究もしています。他と比べて試行錯誤の量が違うと思います。基本的に、デジタルモールはオープンにしていますが、真似はできないですね。

 

濱中:他の会社の営業マンが動画を撮っても真似出来ない?

橋爪:できないですね。みんなここに来て、製作の動画を取るし、実際に型作って持って帰るし、詳しく説明されますが、持ち帰ってみて同じように作れたよという例は聞きません。

濱中:ラーメン屋のスープみたいですね。

 

濱中:会社の福利厚生とか社風はどうでしょう。

橋爪:代表的なのに「イイネ手当」がありますね。自分で製品作って、スワニーのFacebookページにアップすると、1イイネにつき100円が支給されます。これで小遣い稼ぎをしている社員がいます。

あと製造設備は自由に使えるようにしています。できるだけ失敗できる環境をつくるように考えています。

 

▼製造機器の他にもダーツやBARなどの謎の施設が多くあるスワニー

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スワニーについて

濱中:本拠地の場所は長野から変わらないんですか?

橋爪:設計の営業拠点として横浜にオフィスはあります。ただ、長野でもみんな来るんですね。デジタルモールドを見学したいって。

よく考えると、長野の外れですし、こんな不利な地域はあまりないですね。特急がないので電車の鈍行か車でしか来れないんですが、デジタルモールドの技術はみんなが興味持っているので来ます。

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濱中:そういえば、会社サイトを見たんですが、イメージカラーがバラバラなんですね。

橋爪:お、気づきました?実はイメージカラーは3つあります!登壇するプレゼンの場面など、その時に合わせてカラーを変えるようにしています。

 

濱中:後継者はどうするんですか?

橋爪:なにも考えてないです。今は考えたってしょうがないので!

 

濱中:どうすればセクシーになれるんですか?

橋爪:ダンディーを卒業しないとセクシーになれないよ。

 

濱中:浮気はしないんですか?

橋爪:しないよ。すごい美人な嫁さんいますもん。

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濱中:嫁さんの話は置いといて、3Dプリンター屋さんとはどういった付き合いをされてるんですか?

 

橋爪:まずウチは情報が入ってきやすいですね。3Dプリンターのメーカーさんはめちゃくちゃきますよ。ウチは生産技術のツールとして使ってるので、みんなくるんですね。

3Dプリンターで試作サンプルを作ってます!という会社でなく、他の用途に使ってる会社は貴重だと思います。

 

濱中:へー

橋爪:設計・製造屋さんというポジションだから、多くの話が入ってきます。

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濱中:最後に、設計屋さんから見て3Dプリンターについての考えをお聞かせください。

橋爪:出来上がったもので何をするでなく、そっから先にすることの方が大事だと考えます。

3Dプリントでサンプル試作をつくるのは、デザインの形状確認だけなので、そこまで大事じゃないと思います。僕が興味があるのは、どういう機種で何がつくれて、どういった素材でつくれるのが。これの先になにがあるのか?という点ですね。

製品開発をしているメーカーからすると、細かな精度の試作製作にはあまり興味がなくて、なにが製品開発として使えるかに価値があります。

 

濱中:ありがとうございました。

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■まとめ

  • 3Dプリント金型は従来の金型のコストよりはるかに安くて早い
  • とりあえず、製品を300個つくれたら市場で勝負ができる
  • デジタルモールドは、大手メーカーとのアライアンスでによって躍進した
  • 今後、3Dプリンターは試作以外での用途が広がる
  • セクシーの後にダンディーがある
  • 製造は試行錯誤の数がモノを言う

 

橋爪さんは3代目社長ですが、顔立ちや風格は二枚目でしたね。

取材中、橋爪さんが常に手を動かしながら話していたのが印象的でした。むしろ機械の動作音がうるさすぎて取材になりませんでした。あと、鳥がめちゃくちゃ鳴いたのも印象的ですね。またいつか遊びに行きたいと思います。

 

 

※取材のおまけ画像※

男三人で長野に向かっている様子(一番右の僕は車酔いしております)

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ゲーム遊び

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長野の温泉でご飯&一泊

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金型講義

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地元で行われる祭りのダンスの練習

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画像の説明文 <運営元情報>
株式会社メルタは、3D事業に特化した会社です。
3Dデータ作成のモデリーや、3Dプリントの3Dayプリンターなどのサービスを運営しています。ライターの仕事も受け付けます。


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株式会社メルタの代表。 1991年生まれ。高校・大学とボクシングのサンドバックに打ち込み、新卒で入ったベンチャーが半年で倒産し、未経験の3Dプリンター業界で起業。 創業当初は「3人の株式会社」という社名にして怒られていました。目新しいサービスが好きです。